『 追憶:巌徒side.2 』
それから、2年。
君とは深く付き合うようになって、僕に笑顔を見せてくれたりもした。
直斗君を忘れたいのもあったのかもしれないけど、僕は本当に嬉しかったんだよ。
僕の中の計画も順調に動いていて、事件後すぐ局長に納まった僕は検事局に巴君を移動させると、本格的に警察局・検事局共に掌握しつつあった。
この僕の勢いをもはや誰も止めることはできないと誰も思っていただろう。
僕自身、これから僕の描いた理想の正義の実現を信じて疑わなかった。
だが、それを一変する出来事が起きた。
あの『青影事件』再捜査したいと言い出した捜査官を、僕は再び・・・手をかけたのだ。
その日は『青影事件』の証拠品が「申し送り」される日の事だった。
あと一日・・・「申し送り」が終われば、あの忌まわしい『青影事件』を闇に葬ることができたと言うのに。
僕は、あの日の様に再び不協和音が聞こえてくる様な気がした。
それでも僕の正義を貫くために、偽装工作までして『青影事件』の様に隠蔽しようとした。
巴君には連絡したし、これをあの場所に運び込むだけだ。
今はもう動かぬ冷たい躯を、誰にも見つからない様に運ぶ。
あの時僕の顔はどんな顔をしていただろうね?
そして2年前のあの時も。
証拠を隠滅しなければならないと僅かに焦る気持ちの中、何故か僕は君の顔を思い浮かべて・・・君の名を呟いていた。
「・・・。」
やはり僕は君を幸せになどできないのかもしれないと思った。
その後、容疑者として逮捕された巴君の弁護人として、最近良く名を聞く若い弁護士が受け持つ事になったのを聞いた。
噂ではどんなに不利な容疑者でも、ただひたすら被告の無実を信じ、無罪を勝ち取ってきたらしい。
実際に今回の裁判1日目でその弁護人を見る事ができたのだが、若いのになかなか鋭い観点で動いていた。
そしてその友人だと言う検事局の御剣検事。
彼の事は以前から優秀な検事だと聞いていたが、彼も少々不穏な動きを見せていた。
まあ、自分の車が犯行に使われたのだから只でさえ面白くないだろうね。
彼等二人の動きで、裁判の最終日前日には『青影事件』の事まで到達していた。
ひょっとして彼等達が僕が貫こうとした『正義』を、もっと違う形で実現してくれるのかもしれないね。
まだ、僕は譲るつもりは無いけど。
しかし・・・。
恐らく、明日の最終日は僕が出なければならないだろう。
僕の正義を貫くために。
そして、僕はもう君の前には戻らないかもしれない。
僕は考え抜いた挙句、その裁判に君を呼ぶ事にした。
君は、全てを、知る権利がある。
いや、知ってもらわなければならない。
その上で、君は僕の気持ちが伝わるだろうか?
君が僕に向けてくれた気持ちは、もう、十分過ぎるほど伝わってるから。
不協和音は、始まりのメロディーだったんだね。
だけどその中に、僕は居ない。
僕は、最初にタクトを振っただけ。
それでも、僕は最高に気分がいいんだ。
最後の瞬間まで、心地好いメロディーを聴きながら君の事を考えていられるのだから。
本当に君には酷い事をしたね。
君は今、何を想っているだろう・・・。
願わくば、君の夢の中へ行けるといいんだけど。
・・・もう一度、伝えることができるだろうか?
『・・・愛しているよ。そして、ありがとう。』