『 追憶:巌徒side.1 』
君と初めて会ったのは、直斗君が運ばれた病院でだったね。
当時、直斗君から前から彼女が居るとは聞いていた。
『いつか会わせてよ。』などといつも冗談交じりに会話したものだが、まさかこんな状況で会うとはこの僕でさえも予想がつかなかった。
直斗君が眠る病室に駆け込んだ君は、涙も見せず、ただ呆然として彼を見つめていたね。
僕はそんな君の様子を見て、少し違和感を覚えたよ。
その訳は、もう少し後に解る訳だけど。
「君が・・・直斗君の彼女のさん?」
始めは、この一連の事件を完遂させる為に君を懐柔するつもりだったんだ。
「困ったことがあったら、なんでも力になるから。」
変な疑惑を持たれては困るからね。
勿論その後で、自分の部下についても処分をするつもりだったし。
その時まだ僕は、自分の正義を信じていた。
ただ、何の関係のない君を巻き込んでしまった事には申し訳ないと思っていたよ。
しかし、次に君に偶然街中で逢った時、僕の気持ちに不協和音が響く。
2度目に会った君は初めて会った時と印象が変わらず・・・。
『変わらず』というのは可笑しいかもしれない。
目の前の君は、ずいぶん乾いた印象のまま時が止った様だった。
ああ、あの時の違和感はこれだ。
彼女は張り詰めた様子で、そして今にも崩れてしまいそうで、僕は君を放ってはおけなくなった。
「ちょうどいい、一緒に食事にでもどうかな?」
まだ僕は君を懐柔するためだと、心の中で言い訳を言っていたけど、本当は君が気になって仕方がなかったんだね。
戸惑いながらも、快く承諾してくれた君を見てホッとしたりなんかして。
本当に、僕らしくもない。
「・・・時には落ち込んでみるのもいいものだよ。」
そう言うと、君は一筋の涙を溢したね。
一瞬、不謹慎にも涙をこぼす君に見とれてしまったよ。
君の涙はとても綺麗だと思ったんだ。
「・・・だって・・・!いくら涙を流したとしても、直斗は戻ってこない・・・!!」
そう言うと、君の目から涙があふれ出て。
その涙を止めたいと思ったのか、僕は自分の感情が動くのを待たずに君を抱きしめた。
君は悪くない。
悪いのは・・・そう・・・自分だ。
ようやく自分の感情が追いついた僕の心は、君を愛おしく感じていたんだよ。
『僕は君を幸せにするにはどうしたらいいんだろう?』
僕は君を愛し、護る事を決意した。
僕の計画に君を巻き込みたくはない。
理由は無いけれども、そう思ったんだよ。
変だよね、直斗君は僕が手をかけたというのに・・・。
君は僕の言葉を聞き取ることができず聞き直してたけれど、僕は自分の業として心に留めておく事にしたんだ。
その決意と共に、僕は君を強く抱きしめた。