『  追  憶  』  (3)








そっと目を開けると、そこには傍聴していた人波はほとんど消え、今ならすんなり法廷を出る事ができそうだった。


私は・・・あの男に裏切られたのだろうか?


このまま過去に戻れたらいいのに、ふとそんな考えが浮かんだ。
何を今更と可笑しくなって、ふっと笑う。
今日は、直斗を殺した真犯人が見付かった記念すべき日なのに、と。

私は鞄を取り、何かを探すように見渡し確認すると、席を立ち上がり法廷を後にした。






裁判所を出ると眩しい日差しが私を襲った。
ほんの少し眩暈を感じた気がして、しっかりしなくてはと思い思い心を奮い立たせる。


おかしい・・・。


本来ならば今日から心が軽くなるはずだったのに。
相変わらず無意識に周りを見渡す仕草をしている。

探したって、見つかるはずも無いのに。


・・・私は、何を探しているのだろう?






どこをどうやって道を辿って帰ったのかは分からないが、気が付いたら家の自室に居た。
電気も点けずに居たらしく、既に日も落ちていて真っ暗になっていた。

私は食欲もないし、今日は疲れたので早めに寝ようと支度をし、ベットに横たわる。


心がざわついて眠る事すらできない。


私は眠るのが怖いのだろうか?
今日からは安らかに眠れると思っていたのに。
あの日、彼を殺した真犯人が捕まって、私の心を支配していたものも消えるはずなのに。

だが、あの男はどんな気持ちで私を法廷に呼んだのだろうか?
あの時、どんな気持ちで私を抱きしめたのだろうか?


私は驚いていた。


こんなにもあの男の残したものは大きかったのだと。
今、私の中では巌徒への憎しみだったと思っていたものは、紛れも無い彼の真実への慕情。
けれど、彼を消し去ったのはあの男。


それでも・・・私はあの男を愛していたのだ。


だから、だから眠りたくないのだと・・・。








あなたに夢の中で もう一度触れられたら、

許してしまう・・・そんな気がして・・・。