『  追  憶  』  (1)








2月25日。
ある裁判で、巌徒海慈が殺人容疑で告発された。

私はその裁判を傍聴していたのだ。
しかもその傍聴席は、巌徒海慈その人自ら手配してくれた場所。


殺人容疑は今回の事件、そして2年前のある事件。
2年前の事件は分類番号『SL9』、恐らく傍聴している殆どの人はその分類番号からは事件がどんな物だったのかなど分からないだろう。


通称『青影事件』。


しかし、私は今でも鮮明に覚えている。


犠牲になった二名、そのうちの一人当時検事であった罪門直斗、彼は私の恋人だった。
そして・・・。






閉廷後、出口へと向かう人波をやり過ごそうと、そのまま傍聴席に座っていた。
いや、やり過ごすために座っているのではなく、ただ心が落ち着かないだけなのだろう。
これではいけないと、目を閉じた。








二年前、あの事件が起きた時、私は仕事中で病院に駆けつけた時には既に彼の家族は憔悴しきっていた。
彼の兄がそれでもその後の打ち合わせなどを両親に代わって取り仕切っていたのが印象的で、私はそれでもまだ何が起きていたのか理解できずにいた。

私は彼の兄に声を掛けると、変わり果てた弟の所へ案内した。

小さな病室は、彼を慕っていた者や上司が何も言わず立ち尽くしていた。
皆顔は蒼白で、そこで眠っている彼よりも生気がない。
きっと私も同じなのだろう。

ベッドの脇に立ち、そっと彼の冷たくなった頬を触ると、本当に彼は戻ってはこないのだと思い知らされた。


それでも、涙が出ないのは何故なのだろう?


ただ、そこに立ち尽くすだけしかできなかった。






「君が・・・直斗君の彼女のさん?」


そして私はそこで初めて、あの男に出会った。


その部屋の中で、確かに皆消沈しているのだが、その男だけ印象に残る目をしていた。
悲しそうな顔の中で何かを決意するかのような瞳。

私が何も言えないでいると、その男はさらに悲しげな顔をして言った。


「ボクが、目を放した隙に・・・本当に申し訳ない。」


その男の名前は巌徒海慈、当時は警察局の主席捜査官だったか。
彼が殺された状況は、連絡があった時に大方聞いてはいたが、実際目の当たりにすると胸が苦しくなるだけだった。


その男は去り際に、「困ったことがあったら、なんでも力になるから。」と言った。






そして数ヶ月過ぎた頃、偶然にも再びその男と再会することになるとは、私自身思いもよらぬ事だったのだ。