『 キミの事なら全て 』








「ホラ、着てみせてよ〜。」


朝食を終えて部屋のリビングへと戻ると、巌徒がにせがむ。
それは昨日、巌徒からへとプレゼントされたワンピースだった。

昨日の約束では、今日はこれを着て二人でデートをする予定だ。

もちろん自身もこの服には思い出もあり、早速着てみようとまだ箱に入ったままのワンピースを取り出した。
その時ふと巌徒の視線を感じては気が付いて顔を赤くした。


「・・・あ、私ベッドルームで着替えてきますね!!」


それだけ言うと、ベッドルームに入るとバタンと音を立ててドアが閉まった。


「気にしないんだけどなあ、ボク。」


しかしその一連の可愛らしい様子に巌徒は嬉しそうに目を細めて笑う。






「・・・海慈さん。」


ドアの向こうから不安げなの声が聞こえた。

どうかしたのだろうかと心配になり、巌徒はベッドルームのドアノブに手をかけようとした。
それと同時にドアノブは回り、向こうからドアは開けられた。


「っと、ちゃんどうしたの?」


そこには可愛らしいワンピースを纏ったの姿があった。
巌徒は良く似合う、と自分の見立て通りで満足そうだ。
しかしそれとは裏腹に、嬉しそうだがほんの少し戸惑ったの顔が気になる。


「・・・海慈さん、サイズ、やたらピッタリなんですけど・・・。」


言葉の意味だけを考えれば、それに越した事はないのだが、よくよく考えれば本人にサイズを聞いた訳ではないのにピッタリサイズはやや微妙な話だ。
自身、一応体型は標準サイズではあるのだが、やはり普段着以外の服は直して貰う事が良くあるのだ。

巌徒の方はと言えば、の言葉の意図にピンと来ないらしく、不思議そうに首を傾げるだけ。


「・・・良かったじゃない。すごく似合ってるし、どうしたの?」


「ありがとうございます、ってそうじゃなくて、・・・サイズ何で知ってるんですか?」


「あ、そりゃあボク、ちゃんの体熟知してるからね。」


しれっとした顔をして、巌徒は答えた。
は既にほんのり赤い顔をしていたのだが、その言葉で体温の上昇と共に一気に顔が赤くなる。

熟知・・・あまり深く考えたくはないが、どうやらそういう事らしい。


「もー!思いっきり恥ずかしいじゃないですかーーーー!!」


近場にあった枕をひっつかみ、巌徒の方へと投げる。
もちろんそんなに力を入れて投げたわけではないので、ぽすんと軽く巌徒の足元へと枕は落ちた。
巌徒はそんな様子も可愛らしいとにっこり笑うのだった。


「今更往生際が悪いよ、ちゃん。」


つかつかとの前へと歩いて行くと、の腰に両腕を回ししっかりと捕らえた。
おとなしく捕まえられる所を見ると、どうやら観念したらしい。


「捕まえたよ。さ、約束のデートに行こう。」


そのままの体制でひょいとを持ち上げると、そのままリビングの方へと連れ出した。

腕を緩めながら巌徒はの顔を覗き込む。
の方は既に観念しているものの、気恥ずかしさで一杯の様でまだ顔を赤くしていた。


「・・・そんなに可愛いとまた襲っちゃうよ?」


一瞬二人の唇が触れ合ったかと思うと、子供の様に悪戯な笑みを浮かべて巌徒が言った。
最初は慌てていただったが、ようやく巌徒のペースに気が付いて小声で唸った。


「・・・分かりました。その代わり、ちゃんとマフラーして下さいね。」


「もちろん。もう用意してるよ。」


ようやく機嫌の治ったが見せた笑顔に、巌徒は満足そうに笑った。
もちろん最初から、が機嫌を悪くしているなどと思ってはいなかったが。




今日も二人にとって幸せな一日が始まるのだろう。