『 青 天 の 霹 靂 』
ここは裁判所、裁判長私室。
長かった裁判も終わり、裁判長が休憩していると巌徒がを連れてやってきた。
「お疲れ様、チョーさん。」
今日は巌徒の案内で裁判の傍聴に来ていたらしい。
当然自身は裁判に集中していたのだが、確かに二人が傍聴していたのには気付いていた。
「いやいや、まだまだです。・・・ところで、今日は可愛らしいお供を連れてらっしゃるんですな。」
巌徒に負けず劣らず笑顔率の高い裁判長が目を細めて笑う。
一瞬自分の事を言われてるとは思わなかっただが、巌徒の方へ目をやると軽くウインクされたのでようやく自分の事を言われてるのだと気が付いた。
「あっ、すいません。私が巌徒さんにチョーさんの裁判が見てみたいって言ったんです。」
「ほっほっほ、少々気恥ずかしいもんですな。仕事姿を見られるとは。」
「そんな・・・すごくカッコ良かったですよ〜。」
初めて見る裁判に少し興奮気味のだったが、笑顔で感想を伝えた。
裁判長も悪い気がせず、少し照れながら豊かな髭を弄り「ほっほっほ。」と笑っていた。
しばらく談笑が続いたのだが、巌徒はふと思い出して話を切り出した。
「それでさあ、報告もあって来たんだよね、今日。」
「ん?何ですかな?」
わざわざ報告なんて珍しい事もある、と裁判長は思いながら巌徒に問う。
「ボク達、付き合う事になったから。」
・・・誰と誰が?
「えーっと・・・巌徒さん?誰とですか?」
裁判長は理解できずに目を丸くしていた。
「いやだから、ボクとちゃん。」
「・・・。」
しばらくの沈黙の後、ようやく理解したのか裁判長は丸くしていた目を更に大きく見開き、黒い法服を大きく揺らしながら叫んだ。
「ええっ!?」
ようやく落ち着きを取り戻した裁判長は、少し自慢げな巌徒と、少し赤くなっているの顔を見てため息をついた。
「本当に・・・あなたって人は・・・。」
裁判長は呆れたように呟いた。
彼の目の前には地方警察局長という肩書を持った男と、普通の企業に勤める普通の女性が居る。
二人は付き合う事にした、と照れながら(照れてるのはだけだが)話した。
だから何だと言われるかもしれないが、ただ、その白い髭の人物が呆れているのは二人の年齢差だった。
自分の娘より若い子と付き合う事など、彼の中の常識では考えられなかった。
「私は本当に貴方がさんを・・・その・・・狙っているとは思いませんでした。」
「狙っているとは人聞きが悪いなあ。チョーさん。」
笑いながら悪びれずに答える巌徒に、裁判長は今だ信じられない様子だ。
今度はに向かって問いかけた。
「さん!弱みを握られてるわけじゃないんですよね。」
多分、裁判長以外の人間が巌徒にこんな台詞を言おうものなら、きっと明日辺りは海の底の住人にでもなりそうなのだが、さすがに旧友となれば違うようだ。
巌徒も大人しく話を聞いている。
「・・・あっ、違います。私の意志ですから。」
ぽっと頬を赤らめるの様子に、さすがの裁判長も信用せざるを得なかった。
しかしまだ納得できない事が一つ。
「巌徒さん、ちょっと・・・。」
裁判長は部屋の隅へと引っ張り込んだ。
に話が聞こえないように背を向け、コソコソ話し出した。
「あなた・・・さすがにこの歳の差は犯罪じゃないんですか?」
「一応違法性は無いでしょ?チョーさんも良く知ってると思うけど。」
「しかしですな・・・貴方は『地方警察局長』なんですぞ!?立場もあるでしょうに・・・。」
「う〜ん。あんまりそういうコト考えてなかったな。」
「考えてない、じゃ無くて少しは考えなさいよ。」
「ホラ、でもボク、どうにでもできる立場でもあるわけだし、ね。」
巌徒はそう言うと、一人で退屈そうにしているの元へと戻って行った。
「じゃ、ボク達はこれから食事に行くから。また、機会があったら3人で飲みに行こうね、チョーさん。」
は丁寧にお辞儀をし、巌徒はの背を抱き部屋を出て行った。
確かに・・・恋人同士というのはウソではないようだ。
それを呆然と見送る裁判長。
・・・ああ、貴方はそういう人だった・・・。
裁判長自身も巌徒の黒い噂ぐらいは知っている。
それが今更一つ増えた所で何てことも無いんだろうなあと、変に納得したのだった。